志ん朝 井戸の茶碗

志ん朝師匠の噺は、とても品がある。
芸の上だけでなく、
上品な人というのは、本当に何をやっていても品があるもんで、
言葉使い、所作、そういった普段のなにげない生活にも、品が滲みでる。
これは、貧乏とか、金持ちとかいうことではなく、育ちに関係しているもんだと、俺は思う。
もちろん師匠の普段の姿は知らないので、
ここで言う上品というのは、芸の上の話。
師匠の芸における美意識の持ち方における、品と言う事です。

さて、「井戸の茶碗
ここから、噺の内容に触れるので、
まずご覧になってから、読んで下さい。

志ん朝師匠の演目の中で、
「私はこれが一番好き。」というのは、人それぞれにあると思います。
俺も、一番好きな奴は、これではありません。

しかし、志ん朝師匠に、一番似合っているのは、この「井戸の茶碗」だと思う。

この噺には、悪い人が一人も出てこないのです。
屑や、浪人、若侍、大家さん、み〜〜〜んな正直者。
この正直者たちが、そろって頭に馬鹿をつけちまうと、
なんとも愉快な噺になります。
ずっこけたり、とちったり、騙されたり、
そんな事も全然なく、
皆が真正直に動き回って、そのまま落ちになる。
まことにおめでたい。

そんな噺が、志ん朝師匠にピッタリはまると、俺は思うのだ。