酔客との日々

僕は得意技がある。少なくとも、そう信じている。
それは、他人に気持ちよく話しをしてもらうことだ。
そんなこと言っちゃっていいのかと言うと、良いのである。

19の頃から約4年間、下北沢のスナックで働いた。
カウンターとボックス席が4つ程の小さい店だ。女の子も4人くらい使ってた。

それは良い経験だった。ある意味、人生を棒に振ったとも言えるのだけど。

酔客の扱いは難しい。相手は絶対優位だしね。
割と上品な客が多かったが、それでも酔っちまえば上品もへったくれもない。
酔客というのは、絡もうと思えば、どうやっても絡んでくる。
黙ってりゃ、「なんか文句あんのか?」
笑えば、「馬鹿にしてんのか?」
喋れば、「調子に乗ってんのか?」

単純な会話でも、ただ聞いてりゃいいってもんじゃない。
相手に気持ちよく喋ってもらわなけりゃ、客に金を払わせる意味などない。

でしゃばらずに的確なタイミングで同意、疑問、笑い等、あいずちを挿み、
次から次へと流れるように相手から言葉が出てこなくちゃいけない。
ただ聞いてるだけでは、決して会話は弾まない。

女の子目当てで来ているとしても、意外とカウンターで飲みたがる男というのは多く存在していた。
店がはねたあと、客にいろんな場所へ連れて行って貰ったもんだ。男なのにね。
クラブ、寿司屋、雀荘、焼肉、
店の女の子と一緒の時もあるし、僕だけのこともある。

男って不思議なもんで、女の子の前で金を切って遊ぶのも面白いんだろうけど、
男にもね、金の使い方、見せたいんだね。

そうやって、会話の基本を実践したので、
得意技であると言っちゃっても、いいのだ。

今の歳になって、まぁ流れでキャバクラとか、場末のスナックとか行くけど、
ある意味醒めちゃってるので、
一緒に行く友人達のようには楽しめない。
通い詰めて、指名を重ねて、同伴してっていう奴もいるけど、
基本的に、絶対に客とホステスという前提は崩れない。
そこからはじまる恋愛は、万分の一である。

あ、別にこんな話になるのではなかったんだぁ。
僕は、人の話を聞くのがとても好きで、
尚且つ、うまく聞けますという、自慢話をしたかっただけでした。

=========おしまい=========