からすアゲハ

最近良く見ているのは、主として鳥。分類すると、雀とカラスと鳩。
聴いているのも、彼等のさえずり。名を知らぬ鳥のものを含む。
そして気がつけば、随分ツバメが増えた。
ツバメの舞う姿を見て、それは羽ばたいて飛んでいるのではないことがよく解る。
あれは、なんというか、中空をひねっている。
急激にUターンする時や、巣の近くでホバリングしている時を良くみると解るが、
あれは何か力学的におかしい気がする。翼の力では説明できない姿なのだ。
雀も、同じに、力学的にちょっとおかしい。
樹にとまる雀はほぼ真下に飛び降り、また真上に飛んで樹に戻る。
大概、チチチチッとさえずりながら。
あれにどのくらいのエネルギーがいるんだろうと心配になるが、
彼等はいたって涼しげな表情で、餌をついばんでは舞い上がる。

つまり彼等の殆どは、翼で飛んでいるようにみせかけ、翼を持たぬものの眼をくらまし、
つまりお前らは飛べないのだと思い込ませている。
彼等が宙に浮くのは、翼とは関係がない。
飛ぶ術を理解し体感しているか、そうでないかの差にすぎない。
と、俺は思う。

今日、事務所にからすアゲハが舞い込んだ。
この時期は複数の窓を開けているので、
よくハチが入ってくるが、アゲハは珍しい。
スズメバチはちょっとびびるが、
部屋の電気を消せば、ハチはそのまま窓から飛び去る。
ブーンと羽音がする虫は、風に逆らって進む力が非常に大きい。

蝶は、ひらひらと羽が動いているが、飛ぶというには程遠い。
飛ばされないように風の力を逃がすために、動かしているに違いない。

そのせいか、開いている窓に近づくことが難しい。閉まっている窓伝いに外に行こうとするのだが、
開いている窓から外に出られない。推進力が圧倒的に足りない。

仕方ないので、新聞紙でそっと追いやるようにして、
外に出した。

なるほどな。進む方向が解っているからといって、
そちらに進めるとは限らない。

意識の中には透明な得体の知れないバリアが張り巡らされていて、
光の差す方向が見えていたとしても、
打ち破る推進力が足りないこともあるし、
避けて進もうとしても、どこに抜け道があるのかわからない。

必ずと言っていいくらい、救いの手が必要なんだろう。

救いようのない奴だとなるべく思われないように振舞うしか、無い。