すぅ〜っと描かれた、線。

画や、字を描く人が、すぅ〜っと、いい線をえがくことがある。
燕返しのような軌跡で。

筆の性能に拠るのかも知れないけど、
そういった人は、万年筆でも、鉛筆でも、ナイフでも、

すぅ〜っと、いい線をえがくだろう。

空間に、線を引いて下さいと言われたら、

俺はどんな線を書けるのか。

言葉を使って、すぅ〜っと、えがく人がいる。

自分の姓であるシライと名付けられた、
信じられないような美しい軌跡を、自分の体で、えがく人がいる。

昔、親が飼っていたカナリヤは、
籠の中で、
美そのものを歌っていた。そう確信している。
リコーダーで、コピーしようとしたが、
完全にはならなかった。

薄いオレンジ色の、カナリヤ。足首に、小さな赤銅色の、金属環が巻かれていた。
おそらく、何かの識別票みたいなものだろう。

そのカナリヤは、俺がまだ幼い頃、
住んでいたアパートの2階にあった部屋の小さな窓から、
飛び込んできたのだ。

かなりの音量で歌っていたのだが、
近隣から苦情は出なかった。

迷惑になる歌ではなかったのだと、確信している。

邪魔にならない、
すぅ〜っとした線を、えがいてみたい。

そのカナリヤは、俺の記憶に生き生きと、生きているので、
失った時の悲しさは、もう忘れた。