『空飛ぶトナカイ島 エピソード4』

     秘密のタンポポ畑(My Secret Dandelion Field)の巻き

 みさきちゃんは今、河川敷に来ています。
一人で遊びに行っちゃいけないとお母さんに言われているので、今日は近所に住んでいる同じクラスの洋輔が入っている少年野球クラブの試合の応援ということで、
河川敷グランドにチームのメンバーと、その監督やコーチ、また洋輔のお母さんなどと一緒に自転車に乗ってやって来ました。
 と言っても、本当は野球の試合などには全然興味もないし、洋輔にも全く関心はありません。
そのグランドの外野のそのまた向こうの外れに、ちょっとした、だけどみさきちゃんにとってはとても大切な、
秘密の場所があるのです。
 みさきちゃんは、洋輔のお母さんに、「ちょっと向こうの場所に、お花探しに行ってきます。」と指でそのあたりを示してことわってから、秘密の場所へ向かうことにしました。
洋輔のお母さんは、「川のそばには行っちゃだめよ。」と笑いながら言いました。
さきちゃんは「は〜〜い。」と元気良く答えました。
 「やった〜、今日もいっぱいだ〜〜。」みさきちゃんは小さくガッツポーズ。
 あたり一面、タンポポの黄色い花でいっぱいです。
不思議なことに、春夏秋冬いつでも、この場所に来るとタンポポがたくさん咲いているのです。
そしてふんわりとした種のボールも、たくさん出来ているのでした。
 みさきちゃんはタンポポの種を吹いて飛ばすのが、何より好きなのでした。
早速ひとつ摘んで、風向きを確かめます。
風上に向かって吹くと、種が自分の方へ飛び散って来てしまうので、気をつけます。ひとさし指をちょっとなめて、「よし、こっちだ。」と風下を向くと、息をたくさん吸って、
「ふ〜〜〜〜〜〜〜っ。」
 わたのついた種のひとつひとつがわぁ〜〜っと空に舞い上がりました。
種が耳に入ると取れなくなって大変なことになるとどこかで聞いたことがありますが、そうしたら頭の中がタンポポ畑になってしまうのかななんて思ったりして、まぁ、それも楽しいかな〜なんてみさきちゃんは思うのでした。
いやいや、良い子の皆さんは本当に大変なことになってはいけないので、入らないように注意しましょうね。
 第一弾の種たちが遠くに見えなくなると、また次の種ボールをつんで風向きを確かめ、「ふ〜〜〜っ。」
 また見えなくなると次を「ふ〜〜っ。」
 そうやって種を飛ばすと、みさきちゃんはまるで自分が空を飛んで、いろいろな場所へ行けるような気がして、とてもうれしくなるのです。
 また、こんなにたくさん飛ばせば、世界中にタンポポ畑が出来ちゃうかな〜、そうしたらうれしいな〜と、いつも願っているのです。
 そうして小一時間も遊んでいると、野球グランドの方から「ワ〜〜〜ッ。」と歓声が上がりました。
ふと上を見ると、白い野球ボールがみさきちゃんの上も越えて川の方へ飛んで行きました。
グランドでは洋輔が大きく手を上にあげながら、走っているのが見えました。
 みさきちゃんは、「ようし、今日はこのくらいにしておくか〜。」と言って、皆のところに戻ることにしました。 
 ちょうど試合も終わるところで、戦ったチーム同士が整列して、終わりの挨拶をしていました。
どうやら試合は洋輔が「サヨナラ逆転ホームラン」というのを打って、洋輔のチームが勝ったようです。
さきちゃんは、「そっか、さっきのボールは、洋輔が打ったやつだったのか。ふーん。」と思いました。
 帰り道に洋輔が「どうだ、俺の打ったホームラン、凄かったろう。」と言いました。
 みさきちゃんは「ボールだけ見えたよ。」とそっけなく答えました。
 「なんだよ、お前、応援に来たんじゃないのかよ〜。」
 洋輔はちょっとふくれていましたが、みさきちゃんは野球にも、洋輔にも全然興味が無いのでしかたありません。
だけど、ちょっとかわいそうなので、
 「明日、学校では皆に凄いホームランだったって、話してやるよ〜。」と笑いながら言っておいてあげました。


 さて、世界にはいろいろな道があります。皆さんが歩く道。動物達が歩く道。
そして、海や空にも、目に見えない、水や風の道があるのです。
今日みさきちゃんが吹いて空に舞い上がったタンポポの種達は、クルクルと回りながら、一列になって空の道を飛んで行きます。
川を越え、山を越え、そして海を越えて。。。夜になり、朝になり、また夜になり。。。。クルクル、クルクル、飛んで行きます。 
 やがて大きな氷の山を越えると、そこは空飛ぶトナカイ島ダンデライオンフィールドです。
そこは見渡す限りに広がった、タンポポ畑なのです。
そこにやってきた種たちは、地面に降りるとすぐに芽が出て、茎を伸ばし、花が咲きます。
そこには世界中の秘密のタンポポ畑から種が飛んできます。空の風の道を辿って。
 そこに空飛ぶトナカイ達がやって来て、タンポポを食べるのです。
お腹がすいているからではありません。
空飛ぶトナカイ島に住む全ての生き物達は、お腹がすくことは無いのです。
タンポポはトナカイ達が空を飛ぶ為の大切な力になるのです。

 空飛ぶトナカイ島ダンデライオンフィールドは、秘密のタンポポ畑と風の道でつながり、
秘密のタンポポ畑は「失われていく大切な心」と見えない道で、つながっています。
 
     ========終わり========
 
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